国もただ農業の衰退を指を咥えて見ているわけではありません。先にも書きましたが、農産物の輸出や農家の大規模化も農業のテコ入れのひとつだと思います。そしてもうひとつ、農産物を加工して農家の所得を上げる、いわゆる6次産業化がテコ入れのひとつです。

 しかしこの6次産業化、岡山の田舎の現場視点で見ればてんでダメダメで役に立たない、むしろ農家の足をグイグイ引っ張っているダメ政策だと思います。 理由は主に2つあります。

 

 あらためて6次産業化とは何か?農家が農産物を生鮮として出荷してもなかなか儲からない。特に未利用資源と呼ばれる形が悪かったり傷がついたりしている農産物は商品にならず、そのまま畑で捨てられたりしていることが多い。そこでそんな未利用資源を魅力的な加工品にして販売、農家の所得を増やします。それが6次産業化。

 

 全国いろいろな地域の道の駅やアンテナショップで販売されているいわゆる6次産業化商品、いったい何がダメなのか。まずひとつは誰も『売ること』に本気になっていないことが問題だと思います。6次産業化に取り組むにあたって一般的な主なプレイヤーは生産者(農家)、加工業者(もしくは農家自身が加工)、地方自治体(役場)などの行政、商工会や商工会議所などの支援組織、そして自称『全国各地で成功実績を残してきた6次産業化のプロ』『販売の表も裏も知り尽くした元大手小売店の腕利きバイヤー』などのコンサルタントやデザイナー。

 

 この人達が『予算がつくから』とおらが村の6次産業化商品開発に挑戦。農家と加工業者は基本的には儲かるからやるわけだけど、どちらかと言えば役場の方から『予算が付きそうだだからなにか地元の特産品を作りましょう』と持ちかけられるケースが殆んど(少なくとも私の周りはそんな話ばかり)

 

 役場(や商工会・商工会議所など)は当初の『農家の所得向上』の理念はどこへやら、『年間◯件の6次産業化の認定を取ること』(ノルマ達成)が完全に目的化。認定が取れればあとは『全国で実績を残してきた』コンサルタントやデザイナーの力を借りて、どこかで何度か見たことがあるようなデジャブ感あふれる地域の加工品が開発される。そしてマーケット調査のために東京ビッグサイトの見本市に参加。

 『上代・下代』も『納期』も『ロット』も『輸送方法』も『帳合』もなにもかもノープランでとにかくバイヤーに試食してもらって『好感触』『興味を持ってもらえた』と無闇にポジティブな報告書を書いて一丁上がり。

 

 では一番大切などう売るか(どう農家の所得を増やすか)については『それはまた次のステージで・・』『まぁそれはまたおいおい・・』とトーンダウン。はては『行政は特定の企業の利益のための支援はできません、あとはご自分の力で』とすっかり逃げ腰。

 

 結局地元の道の駅や直売所に各町村の味噌、各町村のジャム、各町村の地元の素材を練り込んだ麺が並ぶことに。各プレイヤーが同床異夢で、本来の目的である『農家の所得向上』をすっかり忘れて新商品の『モノ』を作ることだけが目的化(普段は『モノ』ではなく地域のストーリーが詰まった『コト』を売りましょうとか言ってるんじゃないのか?)してる状況で農家の収入の下支えになるような魅力的な加工品など出来るものかと思ってしまうのです。

 少なくとも岡山の田舎での取り組みを見る限り、本気で売る気のない現状の6次産業化商品では農家のためには殆どなっていないと思います。

 

 そして6次産業化がダメなもう一つの理由。

なぜ未利用資源を活用した6次産業化でなければならないのか。別の言い方をすれば、そもそも秀品の農産物自体が売れていないから農家は儲かりにくいのに、なぜB品である未利用資源の活用に話が行ってしまうのか。『未利用資源をどうするか』よりもまず『秀品をどう有利販売するか』ではないのかと思うのです。

 年間1%づつ農家が減っている中で、そして今後押し寄せるTPPの荒波に備える中で予断を持たず過去のやり方にとらわれず生産技術の向上や農作業の効率化・省力化などより良い秀品の農産物を収穫できる努力も重要ですが、『ちゃんと作ったものがちゃんと売れない』ことの方がより喫緊の課題なのではないでしょうか。

 

 何よりも先に現代の流通にマッチした農産物のサプライチェーンのあり方、農産物流通の仕組みを考えるべきではないかと思います。しかし現状を見れば一般的な農産物の流通、いわゆる一般市場流通については聖域化していてノータッチ。『一切手を出すことはまかりならない』ことが不文律になっています。

 そしてそこで6次産業化。秀品の流通については現状からの変更はまかりならないがB品の未利用資源の流通については『お目こぼししてやる』、これが現状の6次産業化です。

 

 そんな濁った視点で、地域みんなや農家が諸手を挙げて喜ぶような魅力的な加工品が出来て、魅力的な販路で販売されて、農家の所得を大幅に上げることができるでしょうか。

  商売そんなに甘いもんじゃないと思います。農産物の6次産業化を他産業で例えるなら、岡山県はいまデニムの生産で大人気。

 

 『岡山デニム』で全世界から引っ張りだこですが、このデニムをジーンズとして販売するのは市場流通以外は一切まかりならない。ただデニム業者がデニムの端切れを財布やコースターに加工して売る分については『おめこぼししてやる』ようなものです。

 ただ幸いにもデニムは大人気で現状でも(デニム業者の皆さんのものすごい努力の結果)売れまくってますが農業はそうではない。根本的な改革も改善もしないで『お目こぼし』されたものをシコシコ売っていたのでは『儲かる農業』『事業として魅力ある農業』そして『担い手が増える農業』になんてなるわけがないのではないかと思います。

 

 まとめるならば、今までの業界のしがらみにがんじがらめで誰も本気で売ろうとしてない6次産業化ではダメなんじゃないかと言うことです。

 

 もちろん例外的プレイヤー全員が頑張って、しっかり結果が出ている6次産業化の事例もあります、でも周りを見回してみればそれがあまりにレアケースにしかなってないのではないかということです。今までの不文律なんてとっとと忘れて、これからの農業にとって最も効率よく最も結果が出る仕組みを地域全体で考える時期が来ているんじゃないでしょうか。